ねこまにあの素

ねこまにあのもと

猫に趣味なんてない

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はじめまして、みなさん。

僕は普段みなさんが見ているアイコンで、

ご主人にだっこされてる猫だよ。

あれは僕がモデルになってるんだ。

 

今日は僕の6歳の誕生日。

 

といっても、

野良猫だった僕は生まれてすぐに保護されたから

正確な誕生日はわからないらしい。

そのあと連れていかれたお医者さんが

推定で決めたんだって。

 

まあそんなことはどうでもいい。

今ここにこうして生きてることが大事なわけで

いつ生まれたかは大した問題じゃないんだ。

 

だけど誕生日は好きだ。

誕生日と、クリスマスと、お正月、

僕にはよくわからないけど、そういう特別な日が人間にはあるらしく、

その時は僕もごちそうがもらえる。

だいたい、人間はお寿司、僕はささみや白身魚だ。

ご主人がゆでてくれる。

 

いつもカリカリしたごはんだから、

たまに食べるささみはたまらない。

 

こんな時、食べることが趣味、なんて言う人間の気持ちは

少しだけわかる気がするんだ。

だけどほんの少しだけ。

 

僕みたいな野良出身の猫にとっては

食べることは生きるために必要なこと。

それを趣味って言っちゃうなんて、

人間は贅沢だな、というのが本音。

 

猫の世界に趣味っていう言葉はない。

僕たちがやることは、全部必要だからやっていることなんだ。

 

おもちゃを追いかけるのだって、

それが獲物だと思っているから本気でやっているし、

よく寝ると人間には言われるけど、それだって最低限の睡眠時間を取っているだけ。

 

遊びという気持ちは一切ないんだ。

いつも真剣なんだよ。

 

でもね。

このお家に来てから、テンションがあがってしまうことはたくさんできたんだ。

 

ごはんのまえ。

ビニール袋をぎゅっと結んだやつとか

ビニールひもを追いかける時。

ご主人が帰ってきた時のお迎え。

 

そうそう、最近ねこさまクエストってやつが始まって、

それは少し楽しいよ。 

 

普段は、僕のごはんを入れる器の中に

一斉に一食分のごはんを入れてもらえるんだ。

 

エストってやつは、

ごはんと別に、リビングに隠されたカリカリごはんの欠片を

僕の嗅覚を頼りに見つけていくっていう狩りみたいなゲーム。

ご主人が開発してくれた。

 

ソファの上だったり、

テレビ台の上だったり、

猫タワーのすみっこだったり、

色んな所にちょっとずつカリカリごはんを置いてくれて、

見つけたら食べられる。

 

見つけないと食べられないから僕も必死なんだけど

全部見つけると何とも言えない達成感があるんだよね。

程よく狩猟本能も満たされる。

 

もとはと言えば、僕が食いしん坊なのと早食いなのとで、

ごはんをあげても一気に食べてしまって、

もっとくれってご主人を噛んでしまうから

ご主人が噛まれないように僕の注意を他に散らそうと考えた作戦だったみたい。

 

でも僕は作戦だろうが何だろうが、

ごはんを見つけるのに必死だから関係ない。

フィールドの宝箱を探すみたいだから、

ねこさまクエストって名前にしたんだって。

僕には何のことだかさっぱりわからないけど

名前なんてどうでもいい。

ごはんが食べられるかどうかが大事なんだ。

僕にとってごはんはまさに死活問題だからね。

 

時々ご主人に言われる。

「うちに来たばっかりの時は、全然ごはんも食べなかったのにね」って。

そう言うときはなぜかいつもちょっとうれしそうだ。

文句を言われてるのか、嬉しがってるのかわからない。

 

 

たしかに僕がこのうちに来たときは、

怖くて何にも食べられなかった。

お水もおいしそうなごはんも用意してくれたけど、

そこまで行く勇気がなかったんだ。

 

だって突然連れてこられたんだから、

普通こわいと思うだろう?

 

 

ここに来る前、

僕は保護猫センターっていうところにいた。

僕のきょうだいもみんな。

 

定期的に譲渡会というのが開かれて、

猫を家族にむかえたい人間たちがやってくる。

そこにご主人がきたというわけだ。

 

僕は生まれてすぐにすこし体調を崩していて、

ほかのきょうだいたちよりも譲渡会に出るのが遅れてしまった。

その間にきょうだいたちはみんな人間のところに行って、

僕だけが残った。

 

人間は生まれて間もないちっちゃい猫のほうがかわいいと思うらしくて

出遅れた僕はなかなかもらってもらえなかった。

あと、しっぽの形もちょっと変わってる。

くにゃっと曲がっているんだ。

人間の言葉で鍵しっぽっていうらしい。

僕は気に入っているけど、人間には魅力がわからないのかな。

 

残った僕を、

お世話してくれた人たちは心配していた。

 

だっこしてみませんか?と色んな人に話しかけていた。

僕はだっこは嫌いなのに。

 

ご主人はそれを聞いて足を止めた。

だっこされた僕は嫌がって抜け出した。

だけどご主人は、嫌がる僕をゆっくり撫でて離れようとしなかった。

なぜか僕を気に入ったらしい。

「この子にします」と言われた瞬間、僕はご主人の家族になった。

 

お世話してくれた人は、引き取り手が決まったことを泣いてよろこんでくれた。

僕は知らない人のお家に行くのが怖くて仕方なくて

泣き叫んでいたのに。

 

ご主人のお家についてからも、

僕は怖くて仕方なかった。

入れられていたカゴから出されて、

すぐソファの下に隠れた。

そしてずっとそこから出なかった。

 

ご主人は水もご飯も口にしない僕をとても心配していたけど

慣れてきたらちょっとずつ顔を出してみたんだ。

 

ちょっとずつちょっとずつ、お家の中も探検して、

びくびくしながらご主人にも慣れていって、

数日したらもうおなかを出して寝れるまでになった。

猫がおなかを出して寝るっていうのは

ここは危険じゃないってリラックスしてる証なんだよ。

 

このあたりから僕は食いしん坊になって

僕にくれるごはんの量では足りなくて

人間のご飯に手を出すようにもなった。

 

だって人間のご飯はおいしい味がついてるじゃないか。

匂いですぐわかる。

猫のものと違うって。

 

人間用のは、猫にとっては味が濃すぎるらしい。

内臓に負担がかかるからと、僕にはくれない。

味がついてるからおいしいのに。

人間だってそうだろう?

濃い味のものばかり食べている。

なのに僕は食べられないなんて、納得がいかないな。

 

ここまで聞いて分かったと思うけど、

僕はいつもごはんのことを考えている。

どうしたらごはんをたくさん食べられるか、とか

どうお願いしたらごはんをもらえるか、とかね。

そのためにいつも一生懸命だ。

食べないと生きていけないから、最優先事項だ。

 

でも人間は不思議だよね。

ごはんにありつく目的じゃないのに、

どこかに出かけたり

何かに夢中になったりする。

 

僕が思うに、それは出かけても敵がいないから襲われる心配がないし、

ごはんはいつでも食べられるからだよね。

それはとてもしあわせなことに見えるな。

 

ご主人なんて、最近は毎日テレビで

野球っていうやつを見てるよ。

よくもまあ飽きずに何時間も見ていられるよね。

僕はすぐ寝てしまうよ。

 

ここまでならまだ理解できるけど、

試合に負けるとひどく落ち込むんだ。

好きで見てるのに落ち込むなんて、意味がわからない。

 

そうなると決まって僕にちょっかいを出してくるんだよな。

だっこしたり

お腹に顔を埋めてみたり

肉球の匂いを嗅いだりしてくるんだ。

「ご主人を癒してよー」とか言いながらさ。

勝ったときは一人で盛り上がってるからいいんだけど、

負けた時は僕にもとばっちりが来るから、勘弁してほしいな。

人間が触ると汚くなるから

後で毛づくろいをしないといけなくなる。

 

ご主人は本当に肉球が好きで、

毎日5回は必ず嗅ぎにくるね。

何がいいのかさっぱりわからない。

 

とにかく人間の趣味というものは

意味がわからないものだらけ。

 

ご主人は僕と遊ぶことが趣味だってたまに言うけど、

実は僕が遊んであげてるんだ。

ご主人はそれに気づかずとても楽しそうにしているよ。 

 

僕と一緒にいる時のご主人は、いつもとても幸せそうだ。

 

でも僕知ってるんだ。

ご主人がたまに、とても淋しそうな顔をしてること。

そんなときは決まって僕に、

長生きしてねと言う。

少し泣いてるときだってある。

 

そう、僕はかなりの確率で、

ご主人より先に死んでしまう。

 

僕はもう6才だ。

猫は7才からシニアになるんだそうだ。

少しずつ、体の不調も出てくるかもしれないし、

できることが少なくなるかもしれない。

もちろん、まだ老け込むつもりはないけどね。

 

僕だって死ぬことは少しこわい。

だけど、ご主人に知っておいて欲しい。

 

僕は毎日精一杯生きてる。

一生懸命ごはんを食べるし、

全力で遊ぶ。

人の目なんて気にせず、その時やりたいことを全力でやってる。

怒られたって気にしない。

 

だから僕は、1日たりとも後悔なんてしたことがない。

そんな毎日を生きてるんだから、

最後はきっとしあわせだったなと思えるよ。

死ぬことは避けられないんだから、

思い残すことがないってことが最高の最期だ。

だから悲しいときはこれを思い出して欲しいよ。

僕は一生懸命生きたってね。

 

もしご主人が僕を連れて帰ってくれなかったら

僕は今頃生きてなかったかもしれないんだし

そう考えれば今生きてることがすごくラッキーに思えるよね。

 

だからほんの少しだけ、ご主人には感謝しているんだ。

だから後悔しないように、

毎日一緒に遊んであげる。

今日からそれを僕の趣味ってことにしてあげてもいいよ。

 

おっと、そろそろごはんの時間だ。

台所に行ってご主人の邪魔をしてこよう。

それも趣味のひとつだからね。